2012年1月2日、遠州灘は嵐と呼べそうな猛烈な風。晴明ゆかりと伝えられる場所を訪れるにはふさわしいような気もした。
元旦から伊豆諸島の鳥島でM7の地震。「鳥」という名に何か報せのようなものを感じてしまうのは戯れとしても、地球が今大きく息づいていることは間違いない。
わたしたちはホットミルクの表面に張った薄皮に棲む麹菌のようなものだ。このまたとない奇遇に感謝。
掛川市の横須賀地区(旧大須賀町横須賀)は横須賀城下の入り江を中心とした港町だったらしいが、地震による隆起で港が干上がり現在の姿となったらしい。そのためか古い街並には回船問屋の邸宅が残る。
大野俊治氏らアーティストが毎年ここで開催している「遠州横須賀街道ちっちゃな文化展」というアートイヴェントがある。展示インスタレーションの為に必要とあらば日常の茶の間など生活空間まで差し出すという住民総力を挙げての特異なイヴェント。毎回たいへんな賑わいで来場者は軽く一万人を超えていると思う。
その横須賀地区の海岸に安倍晴明が築いたと伝わる塚があることは聞いていた。今回無性に行ってみたいと思えたのは、その塚が赤い石を積み上げたものだと知ったからだ。
十数年前東京から郷里に戻った頃。わたしはなぜだか石巻山という小さな山に魅入られた。そして探索するうち様々な伝承を知ったのだけれど、それは長くなるのでここではやめておく。ともかくその頃こんな夢を見た。石巻山のような山が山腹から生えた大きな手で土塊をわたしに差し出され、こう述べられた。
「ワレハ、アカネヒメデアル。コレニテワレノスガタヲツクレ。」
この夢について、ある人は「アカネヒメとは赤石山脈から渥美半島に連なる土地、つまりあなたが住んでいる場所のことだ。」と言った。またある人は伊良湖岬あたりの八王子社という神社の祭神に茜姫という名があったような気がすると言ったが確認はしていない。
掛川横須賀地区の清明塚が赤い石で築かれていると知ったとき、わたしはこの夢を思い出した。
伝承によれば・・・というよりこれは民話のようなものだと思うのだけれど、安倍晴明が横須賀地区を訪れた際、住民は将来の津波への恐怖と日頃の波の轟音に悩まされていたという。清明は、津波に三百両、波音に三百両しめて六百両差し出せば悩みを消し去ってしんぜようと言った。住民がまず三百両差し出すと清明は赤い石を集めささせ塚を築き、これより内陸に津波は来ないと言った。しかしさらに三百両は用意出来なかったので波音は今も昔通りに聞こえるという。
これが実際にあった話しだとして、清明は測量の技術も持ち合わせていたというから防災ラインを指し示したのだろうか?。波の音に関しては、もとより消せるはずもないので高額な謝礼を要求した?。そんなことを想像した。
1月2日、遠州灘は嵐と呼べそうな猛烈な風。晴明ゆかりと伝えられる場所を訪れるにはふさわしいような気もした。掛川市街から南に下り国道150号線に突き当たると左方向は浜岡原子力発電所と標識にあった。コンビニで道を訊ねると若い店員がわざわざ店の外に出て案内してくれた、「今日の風は異常ですよ。」と笑いながら。
200mほど離れた防砂林の中に塚はあった。防砂林に入った途端、風がピタリと止んだ。まるでシェルターにでも入ったかのよう。多少不気味な雰囲気を覚悟していたわたしの想像は見事に裏切られた。赤い山茶花が咲き誇り木漏れ日がぽかぽかと温かい、まさにサンクチュアリと呼ぶのがふさわしい場所だった。
不思議なのは海岸からの距離がことのほか近い事。これでは津波防災ライン標識としての役目はとても果たせそうにない。ならばやはり本当に霊的な結界のようなものなのだろうか?。それは計り知れないことだが、この聖域が二度の巨大地震をかいくぐってなお地元の人々に大切に守られていることは事実だ。
浜岡原発という禍々しい現代の神殿と、この愛らしいサンクチュアリが同じ浜辺に並びあることがなんとも奇妙な偶然に思えた。
Wikipediaによるとインフラストラクチャー(infrastructure、略称・インフラ)とは、国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設を指すらしい。
福島原発が順当に石棺化されたとしても今後数十年は確実に維持管理の必要な施設として残存し続ける。それはアンゼルム・キーファーが言うようにわたしたちの文明が残した廃墟芸術なのだろう。
そしてわたしたちはインフラストラクチャー全般の認識、概念を変更せざるを得ない。インフラストラクチャーは今後、向上やら発展といった上向きな矢印とは関係のない、しなやかな有機性を帯び、自ら呼吸をするような存在として多くの人に愛されることだろう。
そうあってほしい。
今日1月10日、以上のようなことを考えていたら正午前に秋葉山を震源とする小さな地震があった。秋葉山は赤石山脈の南端にあり山頂には秋葉神社が鎮座する。祭神は火之迦具土大神。また富士山と伊勢神宮を結ぶ線上に秋葉山は位置する。この線上には浅間などの地名が多い。また豊橋の石巻山など南朝ゆかりの場所も連なっている。では、富士の向こうに線を延ばすと、それはおそらく府中の大国魂神社にあたる。
